【悋気(りんき)の箱】
2012年 08月 04日
本日は花火大会があるらしいじゃあ御座いませんか。
雨降らないといいけどね。。
さてさて第六回公演の支度をしつつ。
蜂寅企画のユーストリーム番組
Tiger&Bee 隔週土曜22:00~絶賛放送中でございます。
見逃した方も→http://www.ustream.tv/channel/tiger-bee
から過去放送観られますので要チェックで御座います!
番組内に、
皆様から三つお題を頂いて、そこからひとつ怪談話をこさえようじゃあないか、というコーナーが御座います。前回放送で、8割世界の小林肇くんに朗読して貰った【悋気(りんき)の箱】
見そびれた、読み物としても読みたい、との声にお応えしまして
本日テキスト公開です!!
無断転載禁止ですので、何処かで朗読したいなどの希望がありましたらご一報下さいませ。
勿論、このブログからもお題は募集してますので
宜しくお願いします。
第一回【悋気(りんき)の箱】
お題 【おんな・二八そば・木戸】
登場人物:妻、男、人形師(男)
【悋気の箱】
『おんなの悋気は慎むところ』、なんてよく言ったもんで御座いますがね。悋気、つまり嫉妬ってのは女の性分みたいなもんで。女に生まれたからには、どうしたってついてまわる羽目になる。男にしてみりゃ、それがまだ焼き餅って程度なら可愛いもんだが・・・
****
その男は、妻の悋気に悩んでいた。
何処へ行くにも「お前さんドチラへ?」、誰といても「お前さん其方ドナタ?」何を貰っても「お前さん、ドナタから?」
「お前さん、お前さん、お前さん・・・お前さん」
男の方はすっかり参ってしまい、もともと好きだった夜遊びが更に酷くなる始末。女の悋気は酷くなる一方。
ある夜、男は毎度のごとくの夜遊び帰り。また妻が起きて待ってるかと思うと憂鬱になった男は、小腹を満たそうと二八そばへ。
そこには変った先客がいた。山猫廻しのような派手な格好をした男がそばを食っている。
降ろせばいいものを、大きな荷物を紺地の風呂敷で包んで背負ったままだ。喰い終わり、立ち上がった男とやってきた男とがぶつかりそうになり、その拍子に背負っていた荷物をばら撒いてしまう。
「なんだいこいつぁ」
と、拾いながら。
ばら撒かれた荷物はなんと花嫁道具、しかしどれもフツウの物に比べ幾分も小さい。
「へえ、人形の嫁入り道具でさァ」
人形師だという男は応えて言う。人形師は背負いなおすのを手伝ってくれた男に、真っ黒な紐で縛られた真っ黒な小箱を手渡す。
「きっと旦那の役に立つでしょう。なにこの娘にゃあ、必要ないでしょうから」
と、花嫁姿の人形を可愛くかしげてみせる。
「・・・しかし決して紐を解いちゃあいけませんゼ」
とだけ言うと人形師は去っていった。
男は、何がなんだかわからぬまま箱を持ち帰り、妻にあげることにした。
と、以来、どういうわけか妻がぴたりと悋気を起こさなくなった。贈り物がよっぽど嬉しかったのだろうと思っていたが、まるでそれこそ人が変ったようにおとなしい。
夜遊びしても文句も言わず、いつもにこにこと笑みを浮かべている。こいつぁおかしなこともあるもんだ、と思っていた。しかしそれから毎夜のように、
か細い、消え入るような声で
「開けて・・あけて・・」
と、小箱から声が聞こえる。妻を叩き起こして聞かせようとするが、妻には何も聞こえないという。
不思議に思っていたのも束の間、声が聞こえるようになってからというものの、日に日に妻が弱っていく。
それでも妻の顔からは笑みが消えない。
「お前さん、いいのよ。大丈夫だから」
と言って咳き込んで血を吐くが、それでもまだ妻の笑顔は消えない。顔は笑っているのだが、のっぺらとして人形のように生気を感じられない。
そうこうしてるうちに、女は死んでしまった。亡くなる前の夜、女は苦しそうに
「お前さん、お願い。この箱、開けて」
と、懇願したが、男は恐ろしくて聞き入れることができなかった。弔いののち、気味が悪くなくなった男は、ついにその小箱を大川へと投げ捨てた。
その夜、裏の木戸から、どん・・・どん・・と戸を叩く音がする。
こんな時分に誰だろうと、戸を開けてみるが・・誰もいない。なんだ空耳か、とふと足元を見ると
あの黒い小箱が地面に落ちていた。びしょびしょに濡れた小箱の紐は、取れてしまっている。
恐ろしくなって戸を閉めようとするが・・目が、釘付けになって動けない。
あけてはならない箱の蓋が、ゆっくりと開き・・・そこには・・
「やっとあえた」
明くる朝、隣人たちが不審に思って部屋を探したが男の姿は何処にもなく。
きつく紐で縛られた小箱だけが残されていたという。
【了】
戯曲以外の文を書くのも、楽しいもので御座います。
次回、放送は8/11 三題噺のお題は【辻斬り・扇子・かすてら】で御座います。
沈没のしらぬゐ終幕までは江戸怪談縛りで参りますよ。。。
雨降らないといいけどね。。
さてさて第六回公演の支度をしつつ。
蜂寅企画のユーストリーム番組
Tiger&Bee 隔週土曜22:00~絶賛放送中でございます。
見逃した方も→http://www.ustream.tv/channel/tiger-bee
から過去放送観られますので要チェックで御座います!
番組内に、
皆様から三つお題を頂いて、そこからひとつ怪談話をこさえようじゃあないか、というコーナーが御座います。前回放送で、8割世界の小林肇くんに朗読して貰った【悋気(りんき)の箱】
見そびれた、読み物としても読みたい、との声にお応えしまして
本日テキスト公開です!!
無断転載禁止ですので、何処かで朗読したいなどの希望がありましたらご一報下さいませ。
勿論、このブログからもお題は募集してますので
宜しくお願いします。
第一回【悋気(りんき)の箱】
お題 【おんな・二八そば・木戸】
登場人物:妻、男、人形師(男)
【悋気の箱】
『おんなの悋気は慎むところ』、なんてよく言ったもんで御座いますがね。悋気、つまり嫉妬ってのは女の性分みたいなもんで。女に生まれたからには、どうしたってついてまわる羽目になる。男にしてみりゃ、それがまだ焼き餅って程度なら可愛いもんだが・・・
****
その男は、妻の悋気に悩んでいた。
何処へ行くにも「お前さんドチラへ?」、誰といても「お前さん其方ドナタ?」何を貰っても「お前さん、ドナタから?」
「お前さん、お前さん、お前さん・・・お前さん」
男の方はすっかり参ってしまい、もともと好きだった夜遊びが更に酷くなる始末。女の悋気は酷くなる一方。
ある夜、男は毎度のごとくの夜遊び帰り。また妻が起きて待ってるかと思うと憂鬱になった男は、小腹を満たそうと二八そばへ。
そこには変った先客がいた。山猫廻しのような派手な格好をした男がそばを食っている。
降ろせばいいものを、大きな荷物を紺地の風呂敷で包んで背負ったままだ。喰い終わり、立ち上がった男とやってきた男とがぶつかりそうになり、その拍子に背負っていた荷物をばら撒いてしまう。
「なんだいこいつぁ」
と、拾いながら。
ばら撒かれた荷物はなんと花嫁道具、しかしどれもフツウの物に比べ幾分も小さい。
「へえ、人形の嫁入り道具でさァ」
人形師だという男は応えて言う。人形師は背負いなおすのを手伝ってくれた男に、真っ黒な紐で縛られた真っ黒な小箱を手渡す。
「きっと旦那の役に立つでしょう。なにこの娘にゃあ、必要ないでしょうから」
と、花嫁姿の人形を可愛くかしげてみせる。
「・・・しかし決して紐を解いちゃあいけませんゼ」
とだけ言うと人形師は去っていった。
男は、何がなんだかわからぬまま箱を持ち帰り、妻にあげることにした。
と、以来、どういうわけか妻がぴたりと悋気を起こさなくなった。贈り物がよっぽど嬉しかったのだろうと思っていたが、まるでそれこそ人が変ったようにおとなしい。
夜遊びしても文句も言わず、いつもにこにこと笑みを浮かべている。こいつぁおかしなこともあるもんだ、と思っていた。しかしそれから毎夜のように、
か細い、消え入るような声で
「開けて・・あけて・・」
と、小箱から声が聞こえる。妻を叩き起こして聞かせようとするが、妻には何も聞こえないという。
不思議に思っていたのも束の間、声が聞こえるようになってからというものの、日に日に妻が弱っていく。
それでも妻の顔からは笑みが消えない。
「お前さん、いいのよ。大丈夫だから」
と言って咳き込んで血を吐くが、それでもまだ妻の笑顔は消えない。顔は笑っているのだが、のっぺらとして人形のように生気を感じられない。
そうこうしてるうちに、女は死んでしまった。亡くなる前の夜、女は苦しそうに
「お前さん、お願い。この箱、開けて」
と、懇願したが、男は恐ろしくて聞き入れることができなかった。弔いののち、気味が悪くなくなった男は、ついにその小箱を大川へと投げ捨てた。
その夜、裏の木戸から、どん・・・どん・・と戸を叩く音がする。
こんな時分に誰だろうと、戸を開けてみるが・・誰もいない。なんだ空耳か、とふと足元を見ると
あの黒い小箱が地面に落ちていた。びしょびしょに濡れた小箱の紐は、取れてしまっている。
恐ろしくなって戸を閉めようとするが・・目が、釘付けになって動けない。
あけてはならない箱の蓋が、ゆっくりと開き・・・そこには・・
「やっとあえた」
明くる朝、隣人たちが不審に思って部屋を探したが男の姿は何処にもなく。
きつく紐で縛られた小箱だけが残されていたという。
【了】
戯曲以外の文を書くのも、楽しいもので御座います。
次回、放送は8/11 三題噺のお題は【辻斬り・扇子・かすてら】で御座います。
沈没のしらぬゐ終幕までは江戸怪談縛りで参りますよ。。。
by hachi-tora
| 2012-08-04 16:00
| ●蜂寅企画とは?