主宰中尾知代によるプロデュース型演劇ユニット

by hachi-tora

三題噺「夢食む金魚」

しらじらと夜が明けていくのであった。
秋の夜長、と言えども、毎夜毎夜が浮き足立って駆け足で御座います。
どうも通年夜行性、中尾です。


11月のまちづくりもいよいよ始動!

そしてそして。年末年始にもビッグイベントも待ち構えておりますよ!
嗚呼早く色々お伝えしたい!!


さて、一旦お休みを頂いてるユーストリーム番組「Tiger&Bee」でやった三題噺を公開!

沈没のしらぬゐをご覧になった方々は、あの人形師さんに今一度会える!!


第三回【夢(ゆめ)食(は)む金魚】

お題 【畳・髷・金魚】 ※江戸縛りの怪談噺。ツイッターでMegu1Bさんからリクエストで頂いた三題です。

【夢食む金魚】


ふと足元を見ると、真っ白な猫が大きなあくびをしている。
お天道様の光をたっぷり浴びた、もこもこの布団を丸めなおして心地よさそうに目を閉じる。
うとうとと、夢の世界へ船出だ。

人形師は、女中に案内され旅籠の中へと入る。
くたくたである。ここ数日、ろくろく眠らずに作業をしていたのだ、無理もない。
しかしわざわざ遠出してこの旅籠を選んだのだ。
つらい眠気をぐっと堪え、宿帳をと勧める女中に問うた。


「金魚花の間、っては空いておりやすかね?」


**************


“金魚花の間“いつからかそう呼ばれるようになったが、本来は菊の間である。
この旅籠の二階の角部屋だ。噂が噂を呼んで、わざわざ遠くからこの男のような物好きがやってくる。
この部屋に泊まると、その身にちょっとした不思議が起こるのだ。

 
 はじまりはいつだったか。
ある朝、菊の間に泊まった侍が階下に降りてきた。
その顔を見て、店の者一同驚いたものだった。
否、顔ではない、正しくは髷だ。その髷を見て驚いた。
なんと侍の髷に花が咲いていたのである。小さなかすみ草のような花がいくつもいくつも髷の先に咲いている。誰かが悪戯で花を刺したのではないか、とも思ったがこれが違った。
髷の毛先そのものが、花になっていたのだ。しかも侍は怒ることなく、とても上機嫌である。
夢も見ずに良く眠れた、身体がこんなにも軽いのははじめてだ、と喜んで帰っていった。

 以来あの部屋に泊まった者の髷に花が咲く、という怪異が続いた。
しかしその“被害”にあった誰しもが、店に文句ひとつ言わず、むしろ礼を言うほど喜んで帰っていく。心地よい眠りであった、と。

 こうなると菊の間で一体なにが起きているのか、店の者たちはいよいよ確かめたくなった。
ある夜、一人の侍が泊まっているのを、こっそりと襖を開けて覗いたことがある。

 すると。
眠っている侍の、身体の下から何かが浮かび上がってきた。
よくよく目を凝らしてみると、畳の中から真っ赤な金魚が、ぷかりぷかりと浮かんでくるではないか。
一匹、また一匹と浮かび上がり、菊の間はいつの間にか、金魚鉢になったかのように宙を泳ぐ金魚でいっぱいになった。
そのうちに一匹が、眠る侍の髷をつんつん、とついばみだす。侍が、金魚鉢に沈む餌であるかのように、金魚たちはつついてゆく。
つついた先から、ぽん、ぽんぽん、と毛先に花が咲く。
夢を、食べているのだ。と、女中は思った。金魚たちの泳ぐ姿は、まさに夢見心地で、穏やかな極楽の風景であった。
朝になると金魚たちは畳の中へと帰っていった。


**************


人形師も、この金魚花とやらを楽しみにやってきたのだ。
いそいそと宿帳に名を記す人形師の横を、先ほどの猫がすり抜けていった。

「空いてはおりますけど・・」

しかし、ひと足遅かったですね、と女中は足元に絡みつく猫を撫でながら付け足した。

「こいつがね、あの部屋で寝ちまいやがったんですよ」

だらりと、首根っこをつかまれた猫は「にゃおん」と訴えるように、人形師に向かって鳴いた。

「以来、ぱったりと金魚はあらわれません」

 

金魚花の間に案内された人形師は、ぼんやりと外を眺めていた。暮れ六つの鐘が聴こえる。もうすぐ夜がやってくる。

「・・金魚のお味は如何でした?」

人形師の膝の上に丸まった猫は、大きくあくびをして、ぺろりと舌なめずりをした。


【了】


怪談、というよりは百物語の一話のような。
江戸百物語の おおらかな不思議さが好き。
百物語シリーズとして書き続けていくのも楽しそう。

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by hachi-tora | 2012-10-19 06:12